平成17~22年
何故、砥部病院に入院すると、患者さんは落ち着くのでしょうか?よその病院では大声をあげたり、介護に抵抗したり、帰りたいと言って徘徊する人が、砥部病院に入院した途端に大人しくなります。何が他の病院と違うのでしょうか。私が思うに、看護、介護の力がついてきたのだと思います。研修医の佐野先生に夜勤看護実習をしていただいた時、その感想を求めると、「自分は他の病院の救急実習をしたけれども、その時より大変だった」と言われていました。石丸先生にも介護実習、夜勤看護実習をしていただきましたが、「休む暇も、座る暇もなかった。砥部病院の看護師さんもヘルパーさんも良く動かれますね」という感想をいただきました。良く動くというのは、患者さんのそばに常に居てくださるということなのでしょう。昔は、ナースステーションに何人も看護師さんが居て、ドカッと座って長時間カルテを書いていました。その光景を見るたび、私の心は痛みました。ここ数年はどうでしょう。蜘蛛の子を散らしたようにナースステーションには誰もいません。みんな患者さんのそばに行って、一生懸命にお世話をしています。廊下のソファーに患者さんと一緒に座って手を握ってお話してくれている看護師さんもいます。患者さんと「人間としての関わり合い」を大切にするということが、患者さんの治療にどれだけプラスになるか、私も砥部病院で、良い体験をさせていただいています。
先日のNHKのテレビ番組でバリデーション療法の話が出ていました。今ではバリデーションは家庭の介護の中にも取り入れられているということで、びっくりしました。今から7年も前のことになりましょうか、高齢者こころのケアセンター設立時に、きのこエスポワール病院に見学に行きました。その時、事務長さんより「先生のところもバリデーションをされていますか」と聞かれました。「えっそれなんですか」と聞き返すと「バリデーションも知らない!」とあきれられてしまいました。バリデーション(validation)の語源は、価値(value)ですが、何に価値を見出すかというと、認知症の患者さんの感情です。三省堂の英語の辞書で、validateを引くと、「人の感情を正当だと認める」と書いてあります。認知症の患者さんとコミュニケーションをはかる時、知性のレベルでのコミュニケーションは非常に困難ですが、患者さんには豊かな感情が残っています。ここに重点をおいてコミュニケーションを行う方法がバリデーション療法なのです。患者さんのカルテには、今日も「意味不明の言葉を発している」と書かれていることでしょう。しかし、この意味不明と思われる言葉の奥に隠されたその人の感情を理解しようと努力し、その患者さんの感情に寄り添うことが、砥部病院の看護、介護、医療のレベルをさらに向上させることにつながると確信しております。
平成22年分より