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医療法人 誠志会 砥部病院

砥部病院
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愛媛県伊予郡砥部町麻生40-1
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平成25年

2013/05/29
H25 No.5

新しい文化 その3

 

 前回、パーソン・センタード・ケアの新しい文化その2「認知症の人を一人の人間として認め、十分な知識を持っているのは一番身近にいつも居る介護者である。その人の性格、生活歴、健康状態、人間関係に思いを巡らせれば、今その人が示している状態の理解の仕方、アプローチの仕方は無限にあることに気付かなければならない」を紹介しました。たくさんの方から感想をいただき、皆さんの認知症医療に対する志の高さをうれしく思いました。

 皆さんもご存じの通り、認知症に対して決定的な治療薬はありません。私たちは新しい治療法が出現するまで何もすることはないのでしょうか。今回は、取り入れるべき新しい文化その3「認知症に限らず人間そのものに対する理解を高めることが最も緊急に行うべきことがらである」を紹介します。

 私たちは、便失禁したパンツの中に手を入れる患者さんのことを「不潔行為あり」とカルテに記載します。人間としてこの方を見つめた場合、パンツの中に便が出て気持ち悪いから手を入れるのは当然であると理解できます。便で汚れたパンツを冷蔵庫に入れたおばあちゃんのことも、恥ずかしいという感情が豊かに存在して、たまたま隠した場所が冷蔵庫だっただけと解釈できます。

 先日A病院で心臓のカテーテル検査中に心肺停止状態になったOさんはB病院に救急搬送されました。心停止後の脳障害リスクを減少させるための低体温療法が選択され、体温を徐々に上昇させ意識が回復してきた時「何でわしはこんな所に居るんぞ。家に帰らしてくれ」と叫び、暴れたそうです。カルテにはきっと「帰宅願望」「不穏状態」と書かれたことでしょう。しかし、一人の人間として見つめた場合どうなるのでしょうか。A病院で心肺停止状態になったのですから、そこからの記憶はありません。気が付いた時には、知らない所でたくさんのチューブを付けられて寝かされています。大声をあげて、「帰らしてくれ」というのも人間として理解できます。治療を中断して家に帰り、精神的には落ち着きましたが、私は心臓のことが心配でした。Cクリニックに紹介したところ、左心室に直径が2cmの血栓があり、急死の可能性が高いと診断されたものの、入院して暴れるなら手術はできないと判断されてしまいました。しかし、受診後Oさんは「わしは心臓が悪いんか。薬飲まんといけんの」と言われ、私はCクリニックにOさんが治療に前向きであることを電話しました。本来なら緊急手術の対象であるからと、すぐに血栓を除去する手術をしていただきました。今は元気に生活をされています。この患者さんの場合、人間そのものに対する理解があったからこそ良い結果が得られたのです。

 今回はみなさんがこれから体験する、患者さん、上司、同僚に対して「人間そのものに対して理解を深めた」事例を報告してください。楽しみにしています。

平成25年5月24日

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