平成24年
結婚式で一番感動する場面は、花嫁が両親に向けて手紙を読むシーンです。しかし、内容を聞いていると、娘と父親の関係は難しいと感じることが多々あります。「お父さんごめんなさい。お父さんとは中学時から口をきいていません」と手紙を読むのを聞くにつけ「ええっ、こんなに素直ないい子が」と思うことがしばしばです。あの手紙のあと、あの娘さんはお父さんに対してきっと親孝行するようになったと信じています。
何故親孝行をしなければならないのでしょうか。最も大切な自分の命の根源が両親にあるからです。一人の人間が生まれるためには父と母の2人が必要です。父、母が生まれるためには、それぞれの両親、すなわち祖父祖母が二組、4人が必要です。曾祖父母の代では8人、4代さかのぼると天文学的数字になります。そのご先祖さまのうち、もし1人でも欠けていたら、今の自分の命は無かったことになります。両親はこのご先祖さまに通じる入口に存するわけで、親を尊敬し、大切にし、孝行を尽くすのは、当たり前のことなのです。
先日ある看護師さんが久しぶりに里帰りをしました。父親からはいろいろ説教されましたが、一切反抗せずに、お墓参りも済ませて帰ってきたそうです。最近この看護師さんが明るく、華やいで見え、患者さんにもとても優しいのは、お父さんとの関係が良くなったからだと思います。野口嘉則の「鏡の法則」そのものです。今度は患者さんにしてあげるのと同様に「大好き、大好き」をお父さんにしてあげてもらいたいと思います。
私は先日53歳になりました。今年から誕生日は両親に感謝を捧げる日にしようと思い手紙を書きました。手紙にはまず、生んでいただき、今日まで育てていただいたお礼を書きました。小さい頃の思い出は尽きることがありませんが、両親が寝る布団の上に「寝うんこ」を一つずつしたことは、やはり今謝っておかなければならないと、「ごめんなさい」と書きました。豆炭こたつで足を火傷したとき、母が私を抱いて泣きながら謝ってくれたことなど、いろいろな思い出を綴り感謝しました。自分の名前「敏」については、「機を見るに敏」くらいにしか思ってなかったのですが、安岡正篤の本の中に「『敏』の本義とは、自分を善くするため、仕事のため、友のため、世のために、気をつけよう、役に立とう、豆に尽くそうと心身を動かすことである」と書いてあることを発見し、良い名前を付けていただいたことにも感謝しました。
入院中の方々はそれぞれに尊いお父さんお母さん達です。私たちは患者さんのために心身を働かせて、尊い親孝行の手助けをしようではありませんか。
平成24年7月24日