平成24年
「患者さんに最後まで希望を持っていただくためにはどうしたらよいか」ということは、私たちにとって切実な問題です。先日50歳代という若さで癌に侵され入院されていた患者さんと向き合う機会を得ました。癌が見つかったときには、すでにかなり進行した状態でした。患者さんはこの事をよく理解されており、転移が数ヵ所に及んでいる事も知っておられます。モルヒネを増量すると眠たくなるからと拒否され、何もしてあげられない無力感にさいなまれながらも私は病室に入りイスに腰掛けていろいろなお話をしました。大腸癌の末期で、体に悪いと痛み止めを拒否されていた学校の先生が、あと数ヶ月の命と知ったとき、モルヒネを服用しながら仕事を続け、週末毎に家族全員で旅行に行き良い思い出を作られたという話をしました。また、倫理法人会のテキストには死に関して正面から書いてあり、私が読んでお話しするよりも、直接読んでいただいた方が良いと考えお渡ししました。転院までの数日間、いつ病室に行っても、一生懸命にその本を読まれていました。先日、転院先の病院で亡くなられたという知らせが入り、病棟の看護師さんに、「砥部病院に帰って来られたとき、お部屋を飾り付けようと思ってこんなに用意していました」と、いろいろな飾り付けを見せられたときには涙があふれてきました。ご家族の方にお聞きすると、ずっと「ありがとう。ありがとう」と言われ、大変静かな最期だったそうです。
この患者さんにとって、「最後まで希望を持っていただく」ということは、何だったのでしょうか。最後まで抗がん剤を投与することでしょうか。放射線治療をすることでしょうか。この方にとっての希望とは、ご家族や私たちが共に居たことではないかと思います。たとえ医療に見放された患者さんに対しても、我々にできることは、たくさんあります。決して患者さんを一人にしないことです。人間的な関わり合いを保っていくことです。病気だけを診るのではなく、その人まるごとを私たちが優しく包み込んであげることです。たとえ患者さんが、絶望の縁に立たされていたとしても、私たちにできることは無限にあるのです。打つ手は無限。
平成24年2月24日