令和5年
「宿命は変えられないが、運命は変えられる」という言葉を聞いたことがありますか。
宿命とは、「生まれる前から決まっていて、自分では変えることも、避けることもできないもの」のことを指します。例えば、生まれついた場所や、国籍、家族、生まれ持った才能など、生まれた時点で既に決まっていて、変えられないものに対して使われる言葉です。
運命とは「自分自身の生き方や行動など、様々な人やものの影響を受けながら、変えることのできないもの」のことを言います。自分ですべてをコントロールできるものではありませんが、日々の行いや選択によって変えることのできるものを指します。
臨済宗の宗祖臨済義玄禅師の言行録『臨済録』の一節に「随処に主となれば、立処(りっしょ)皆な真なり」とあります。
それぞれの置かれた立場や環境で、それぞれの成すべき務めを精一杯果たせば、必ず真価を発揮することができると喝破(かっぱ)します。
私たちはともすれば、不遇や環境を嘆き、できない言い訳を他人の責任にして、不満ばかりを募らせます。その瞬間、こころも行動も一か所に淀んでしまい、同じところをぐるぐると、迷いの渦に沈んで行き先を見失ってしまいがちです。
こんな時、思い出してもらいたいのが「宿命は変えられないけれど、運命は変えられる」という言葉です。
「宿命は変えられない」のだから、自分の置かれた環境、条件、境遇をありのままに受け入れる。いったん立ち止まり、今、此の瞬間、自分にできること、手を付けられることは何かをしっかりと見据えてみる。そこを手掛かりとして、一歩を踏み出し、後は結果を顧みず、その瞬間、その瞬間に自分のすべての力を注ぎ、「運命は変えられる」と、誠心誠意取り組んでゆく。いつか気が付けば、思いもかけない成果を手にしていた!との真実を伝えてくれる禅語です。
「運命」の「運」とは、人によって運ばれてくるものとも言われています。今、自分の前にいる「運」すなはち「人」を見過ごしていることは、ないでしょうか。今、目の前にいる人を大切に思っていますか。自分の保身のために人付き合いを変える人、人から受けた恩を忘れる人に、決して幸運は巡ってきません。
「運に恵まれている人」とは、目の前の一人ひとりを、とても大切にしている人です。出会いや縁を心の底から大切にできるかどうかが、自分の運命を決定づけるのです。
令和5年9月24日
砥部病院 院長 中城 敏