令和5年
「この3年間で正しい問いを立てる力をつけて欲しい」と愛媛県立松山南高等学校の池田哲也校長先生が令和5年4月10日の入学式で言われたことを、今もずっと考え続けています。
皆さんは、アリとキリギリスの話を知っていますか。アリさんは夏の間、食べ物が無くなる冬に備えて、せっせと働きます。一方、キリギリスさんは、そんなことお構いなしに、バイオリンを弾いたり、昼寝をしたり、まったく働きません。
やがて冬が来ます。アリさんは暖かい部屋で、夏の間に蓄えた食べ物があって、楽しく暮らしています。一方、キリギリスさんは飢えと寒さに苦しみながら、たたずんでいます。切羽詰まってアリさんの家に行きました。恥を忍んで、「どうか食べ物を分けてください」と言います。
この時、アリさんはキリギリスさんに対して、どのような問いかけをしたらいいでしょう。もし、アリさんが「なぜ、キリギリスさんは、私たちが一生懸命に働いていた時に、手伝ってくれなかったのですか」と質問したら、これは間違った問いです。
この問いに対するキリギリスさんの答えは、「夏は暑かったから、働きたくなかったのです」とか「バイオリンに熱中していました」という言い訳ばかりになるでしょう。
正しい問いとは、「望ましくない現状」を、「こうあって欲しい未来」に導くような問いと定義することができます。そうすれば、問いを投げかけられた人が、望ましい未来に向かって、進むことができるからです。
アリとキリギリスのお話の中で、「未来のあるべき姿」を、「冬でも食料がたくさんあって、みんなで楽しく過ごすことのできる世界」とします。これを目標として、キリギリスさんに対し、アリさんが、「冬でも食べ物に困らないために、どうすればいいでしょうか」と、問いかけます。キリギリスさんは、ない首を少し傾(かし)げて考えます。しばらく経って、「太陽光を利用して、温室を作ったらどうだろう。冬になっても温室の中で、果物や野菜ができるようになると、食べ物に困らなくてすむ」と提案します。
アリさんとキリギリスさんが協力して、温室を完成させました。それからというもの、アリさんは夏の間あくせく働くことがなくなり、キリギリスさんのバイオリンの音色を聞きながら、お昼寝もできるようになりました。めでたし、めでたし。
こうありたいという未来を想定して、それにつながる問いが、「正しい問い」です。病院の同僚は、もちろん、自分自身に対しても「正しい問い」を立ててみてください。
令和5年8月24日
砥部病院 院長 中城 敏