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医療法人 誠志会 砥部病院

砥部病院
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令和4年

2022/08/01

 校医として、小学校の学校評議委員会に出席した時のことである。研修医の八木徹先生にも見学してもらおうと、事前に校長先生の承諾を得ていた。部屋に入ると、評議委員は大きなテーブルを囲んで席に着いたが、八木先生の席は、離れたところにポツンと一つ用意されていた。将来の地域医療の担い手となる八木先生のもてなし方に、私は不満を感じた。
 数年前、中予保健所三木優子所長から、電話をいただいたことを思い出す。今度の医療監視にベネズエラからの留学生を見学に連れてきてよいかとの問い合わせである。申し訳なさそうに言う三木所長に、歓迎する旨を伝えた。
 医療監視は院長の挨拶から始まる。あらかじめ原稿を用意した。グーグル翻訳で、スペイン語に直し、何回も発音を聞いて、カタカナでルビを打った。医療監視当日、六人の保健所職員に混じって、ベネズエラからの女性留学生が三木所長の横の席につく。私は、挨拶文をスペイン語で読み上げた。私の横で、山田一幸君が一文ずつ、日本語に通訳してくれた。留学生は私の話すスペイン語に笑顔でうなずいてくれた。また、三木所長をはじめ中予保健所の方々も満面の笑顔となり、喜んでもらうことができた。
 曹洞宗徳雄山建功寺住職、枡野俊明和尚によれば、「おもてなし」の語源は、「持って成す」であるという。すなはち、「行為を持って、自分の気持ちを成す」という意味である。
 将来、ベネズエラの公衆衛生を担って立つ留学生に敬意を表し、スペイン語で挨拶するという行為で、私たちの気持ちを表現した。とても楽しく、ユーモアに富んだ「おもてなし」ができた。今も山田君との良い思い出になっている。
 評議委員会で私は、小学校の時に道徳の授業で習ったフィンガーボールの話題を提供した。王女さまが外国のお客様を晩餐会に招待した時、指を洗うためのフィンガーボールの水を客が飲んでしまう。王女さまは客に恥をかかせまいと、自分もフィンガーボールの水を飲むという「おもてなしの心」の話である。
 あれから、53年間、西洋レストランに何回も足を運んだが、ついにフィンガーボールには出会えなかった。それゆえ、時代にそぐわない教材だったと発言した。当然、教科書からは削除されているものと思っていた。後日、評議委員の一人、PTA会長岡田裕道君より、「フィンガーボール」の話が載っている、現在の4年生が使っている教科書を見せてもらった。
 53年ぶりに読む文章は懐かしかった。道徳からは横道にそれるが、「いつかきっとフィンガーボールの出るようなレストランで食事ができるようになりたい」と少年(当時の私)に挑戦の心を抱かせた教材である。今も心に残っているのだから素晴らしい題材であったとも思う。
 貿易会社の社長夫人とフィンガーボールのことについて話す機会があった。松山市内では見たことはないが、東京銀座にある超高級フレンチレストランでは、必ずフィンガーボールが出るとのことだった。井の中の少年は東京を知らなかった。これからも少年(現在の私)の挑戦は続く。挑戦の心さえ持っていれば、少年の青春は永遠に不滅なのである。

 令和4年6月24日 63歳の誕生日に寄せて

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