令和3年
漢方のドリンクを服用した15分後から、Aさんの全身が真っ赤に腫れあがり、嘔吐、下痢、腹痛で苦しがっている、という電話が家族よりあった。アナフィラキシーショックだと直感した。
私は、はばたき園で菊の鑑賞会に出席していた。病院までは7分の距離である。時計を見ると19時52分、もうすぐ迎えのタクシーが来る。20時過ぎに病院で会うことを約束した。
到着するとAさんが病院に入るところだった。顔は真っ赤に腫れあがり、呼吸困難が出現していた。
ただちにボスミン0.3㎖を筋注した。少し楽になった様子だったが、苦しいためか、私の手を握って離さない。追加で0.3㎖ボスミンを筋注した。
意識は清明であるため、時間100㎖の速度でラクテック注の点滴と、ステロイドの側管からの投与を指示した。入院カルテを外来で打ち込んで、病室にあがると、大分落ち着いた様子だった。
その日、救急病院は済生会松山病院だった。救急車を呼んだとしても、そこに着くまでに命が持たなかったかもしれない。少なくとも重症化は避けられなかったであろう。
そもそもアナフィラキシーショックとは、抗原が肥満細胞表面のIgE抗体に結合することにより、ヒスタミンやセロトニンなどの脱顆粒が生じることに始まる。これらの物質が、血管の透過性を亢進させて血圧が低下する。また、全身の発赤や蕁麻疹を誘発する。気管支の収縮や浮腫により呼吸困難が生じ、腸管の浮腫によって下痢、腹痛、嘔吐が出現する。
アナフィラキシーショックを少しでも疑ったら、直ちにボスミン0.3㎖筋注すべきである。一刻も早く、脱顆粒を抑制することが肝要なのである。
県立中央病院救急科の濱見先生とボスミンについて話したことがある。先生は、「少しでもアナフィラキシーショックを疑ったら、すぐに、気軽にボスミンを筋注すべきです。普通の人に筋注しても、0.3㎖では、何も起こりませんよ」と言われた。この濱見先生の言葉がAさんを救ったのである。
令和3年11月24日