令和3年
愛亀グループ1200人の職域ワクチン接種で6人が倒れた。いずれも筋骨隆々とした若者である。そのうち2人にボスミン0.3㎖の筋注を行った。
危惧されるべきは、アナフィラキシーショックである。ワクチン接種に関連して、先日もまた、医療事故支援センターより「注射剤によるアナフィラキシーショックに係る死亡事例の分析」の冊子が送られてきた。
熟読すると、ショックが生じてから、12分後にアドレナリン投与、死亡。29分後にアドレナリン投与、死亡。11分後にアドレナリン投与、死亡。6分後にアドレナリン投与、死亡。と、アドレナリン(ボスミン)投与が遅れたために死亡した12事例が並べてある。
「患者の容体が変化した場合、皮膚症状を認めなくても、通常血圧より明らかに血圧が低下している場合は、確定診断を待たずに、直ちにアドレナリン(ボスミン)0.3㎖を筋注すること」が報告書の結論である。
ボスミンの添付文書には、1.心臓においては心拍数を増加させ、心筋の収縮力を高め、心拍出量を増大する。(α作用)2.気管支筋に対しては弛緩作用をあらわす。(β2作用)とだけ書いている。
なぜ、アドレナリンの筋注でなくてはならないのか。血圧を上昇させるだけなら、ノルアドレナリンでも、それを誘発するエフェドリンでも良いではないかという疑問にその冊子はまったく答えていない。そこで、いつものように永塚薬局長に相談した。
アナフィラキシーショックの本態は、肥満細胞の表面に付着しているIgE抗体がアレルゲンに反応して、ヒスタミンを含む顆粒を放出することにある。ヒスタミンの半減期は数分であるが、アレルギー反応が持続する場合、肥満細胞からのヒスタミンの放出が起こり続けていると考えられる。
アドレナリンは肥満細胞のβ2受容体に作用して、秒単位で脱顆粒を抑制するのである。したがってβ2作用の少ないノルアドレナリンは効果が望めず、アドレナリンでなくてはならない。しかも、早期に筋注で血中濃度を高める必要がある。
今後、砥部町でも若者のワクチン接種が始まる。報告書には、ボスミン0.3㎖筋注した316名のうち、4人に軽微な有害事象が出現するにとどまったとある。迷走神経反射かアナフィラキシーショックか迷ったら、ためらうことなく、ズボンの上からボスミン0.3㎖筋注を行うこと。ちなみにボスミン1Aは94円。レセプトは気にしなくてよい。
秒単位で、肥満細胞からの脱顆粒を抑制し、救命することが、肝要なのである。
令和3年7月24日