令和3年
研修医になって2年目の冬、派遣先の西条中央病院で当直をしていた。朝の4時、頑強そうな男性が受診した。
座るなり、「先生、喉がイガイガするんじゃが」と言った。寝起きの悪い私は、ついつい、「えっ、喉がイガイガするくらいで、来たんですか」と言ってしまった。男性は「喉がイガイガするで病院に来たらいかんのか。嫁が行け言うたけん、来たんじゃ。もうええ、お前には診てもらわん」と言って、診察室の椅子を蹴り倒して出て行った。
それから、1週間後、弓場意出夫病院長に呼び出された。その男性より「お前のところの若い医者のしつけはどうなっとるんじゃ」というクレームの電話があったらしい。院長先生は、「夜中にそんなことで受診して、腹が立つのはよくわかるが、文句は診察した後で言いなさい。診察の前に患者さんを怒らせると、診療拒否になりかねません」と注意された。
また、1週間後、今度は越智勝事務長が私のところへやって来た。「中央病院一愛想のいい先生が、そんなことを言われるとは思いませんでした」と言われた。なかなか、粘り強い患者さんであった。
研修医当直御法度(三輪書店)の研修医当直心得の1に、
➀軽症患者に「何でこれくらいで夜に来たの?」は禁句。
患者にいつもつらくあたっていると、手遅れの受診者が増える。
救急室で軽症患者を受診するのは、真の救急患者が早めに受診しやすい救急室にするためだと悟れ!
➁忙しく、眠く、空腹で、トイレにも行けず、腹が立っても患者には八つ当たりするな!
大きなトラブルや誤診は患者に腹を立てながら診察した時に起こっている。
腹立ちやイライラ、周りの医療スタッフに対しても不機嫌を隠してこそプロなのである、とあった。
この春、次男が研修医になった。父が、息子に自慢できることは一つもないが、あえて言うなら、この冬、インフルエンザワクチンを打ちに来た若者の心房細動を二人見つけた。息子よ、身体診察に気を抜くな。
令和3年5月24日