令和2年
第99回愛媛教育研究大会の特別講演に出席しました。講師は愛媛県立美術館の学芸員鈴木有紀先生、演題は「対話型授業」、学校の先生に向けてのお話でした。
最初、スライドに映し出されたのはゴッホの花瓶にさした15本のヒマワリの絵でした。高い所で咲いているヒマワリもあれば、下の方にあるヒマワリもある。正面を向いているのもあれば、下を向いているのもある。これらに15番目までの番号が打たれます。
先生は、「このヒマワリの中で一番自分の心情に近いものは、何番のヒマワリですか」と質問されます。さすが聴衆は学校の先生方です。次々に手が上がり、「今の私の心情を表しているのは5番のヒマワリです」などと発表します。鈴木先生は、その理由を聞かれ、発表者は、その問いに答えていきます。
何回かその問答が繰り返された後、鈴木先生の次の質問は、「さて。私は何と言って理由を聞いたでしょう」というものでした。ある先生は、「鈴木先生は、なぜそう思ったのですか聞きました」と発表すると、また、ある先生が手を挙げて、「どこからそう思ったのですかと聞かれました」と言います。こちらが正解でした。
この「どこからそう思ったのですか」という問いこそが、対話型鑑賞の中核をなすものです。「どうしてそう思ったのですか」と質問すれば、自分の解釈を述べてしまいます。その最たる答が、「何となくそう思いました」になってしまいます。ところが、「どこからそう思ったのですか」と聞けば、それに答えようとして、その根拠を見つけようと、ゴッホの絵を真剣に見つめるようになります。これが鑑賞力を高めることにつながります。
「どこからそう思うの?」という問いに対して、生徒は一生懸命に絵を見て、考えて、根拠を示しながら話します。話すとは、自分の考えを整理しながら、言葉を選んで、相手に伝えることです。次に、他の人の発表に耳を傾けます。しっかりと聞いていると、自分ではたどり着けない考えを知ることができます。そこから新たな視点を得て、改めて作品を見るとそれまでに自分には見えなかったものが見えてくるのです。見る、考える、話す、聴く、を繰り返すことにより、鑑賞を深めていくことができます。
「どこからそう思うの?」と「どうしてそう思うの?」を使い分けて実験的授業をした結果、「どこからそう思うの?」と訊いたクラスでは、返答の80%が、事実または事実に基づく解釈だったのに対して、「どうしてそう思うの?」と訊いたクラスでは、事実または事実に基づく解釈の返答が60%に減少していました。算数の文章題の授業に「どこからそう思うの?」を応用したら、文章を一生懸命に読んで、根拠を探すようになったといいます。
電子カルテになって、カルテの様式がProblem Oriented Systemに統一されました。
A)Assessmentを書くのが一番大変ですが、S)とO)にしっかりとした根拠を書き、常に「どこからそう思うのか」と自問自答しながら、根拠に元づく解釈をして、A)を考えて書き、情報を共有して、医療に生かす。これが「対話型医療」です。
ゴッホのヒマワリの絵を外来に飾ります。是非深みのある鑑賞をしてみてください。
清水師長は、先日めでたく小学校を卒業した可愛いひまりちゃんに、対話型授業を応用してみてください。砥部病院初の東大生を期待しています。
令和2年3月24日