済美高校のA君は将来を嘱望されたキャッチャーでした。その野球センスは上甲監督にも一目置かれていました。去年のことになりますが、A君が学校の健診で心電図異常が見つかり内科を受診しました。確かに胸部誘導でT波が逆転しており、その心電図をよつば循環器クリニックにFAXで送りました。藤枝先生はすぐに電話してきて下さり、「念のためこちらで受診させてください」とのことでした。診察の結果、心筋が肥大化する病気であると診断されました。致死的不整脈の生じる可能性もあるという話をご家族にもされたようです。今まではまったく問題はなく、野球の練習もきちんとできていましたから、大変なショックだったと思います。それから数日経って、通学中に自転車のタイヤがパンク。家に帰っておじいちゃんに軽トラで学校まで送ってもらいました。遅刻届を取りに行こうとして職員室に入る直前、心停止になり倒れました。その場に野球部の部長が居られ、この子は心臓が悪いからとその場でAEDを装着、「ショックを与えてください」との機械の指示通りにボタンを押しました。すると、A君は意識を取り戻し、すぐに救急車でよつば循環器クリニックに運びました。容態が落ち着いて後、体内に除細動器を埋め込みました。A君は激しい運動は控えなくてはならなくなりました。しかし、その後も野球部員として、裏方に回り、チームをしっかり支えました。A君のその姿を見た時、プロに入るのでなければマネージャーの仕事に徹するほうが将来絶対役に立つと確信しました。 　

　上甲監督は、一度も背番号を付けたことなく、一度も試合に出たことのないBチームの生徒に、何とか3年間の良い思い出をつくってあげたいと、ずっと思われていたそうです。今年、その思いが実現しました。マドンナ球場を借り切って、松山北高Bチームとの試合ができました。いつもはレギュラーのために玉拾いなど裏方に回っていた3年生が主役です。新しいユニホームに背番号を付け、電光掲示板に自分の名前が出る。生徒にとってもご両親にとっても夢のような球宴が開かれました。試合は白熱していて、4対3で済美高校が逆転勝ちをしました。もちろんA君も一発、ガツンと打ちました。A君にとっても忘れられない試合だったと思います。 　

　砥部病院には済美高校野球部のようなレギュラー、レギュラー外の区別はありません。職員はみんな、即レギュラーです。電光掲示板ではないけれど、ホワイトボードに顔写真と名前が出ます。毎回試合に出て、社会人として真剣に勝負します。エラーだけはしないようにコツコツと仕事をこなします。仕事をすればするほど患者さんに喜ばれ、喜んでもらったことで、それがうれしくて、また、ウキウキワクワクと仕事をしてしまう。今年のマドンナ球場の3年生のような思いを持って、良い仕事をたくさんしていただきたいと思います。

平成21年分より