名誉院長の麻生だより
川崎市の介護付有料老人ホームで、元職員が入所者を転落死させた容疑で逮捕されました。2月22日付愛媛新聞で高野龍昭東洋大学准教授は「会社や個人の問題としてのみ、この事件をとらえてはならない。介護サービスの運営やその仕事の特性などを俯瞰したうえで、本質的な課題を考え、解決していく必要がある」と書いています。医療や看護、介護の仕事が「感情労働」であるということが見過ごされていることに問題の本質があります。
第1の課題は、介護の仕事は肉体的負担に注目されがちですが、それよりも「感情」が大きく揺さぶられる仕事であるということです。利用者が喜んで、笑顔を見せてくれれば、職員の「感情」も前向きになります。しかし、利用者が介護に抵抗したり、言うことを聞いてくれなかったり、職員を殴ったり、職員に噛みついたりすると職員の「感情」は悪化します。職員の悪化した「感情」が利用者に向かうことは、あってはならないことですが、あながち不思議ではないと高野氏は言います。
第2の課題は、介護は職員それぞれの方法や個人の判断で実施され、標準的な介護が現場で十分にできていないことです。スキルの低い職員は自分なりのやり方で介護を行い、やがて行き詰まり、密室性の高い施設の中で虐待につながる行動に出てもおかしくないと高野氏は言っています。
第1の課題に対して、私たちは、利用者や患者さん、仕事に対する不満や苦しさを互いに吐き出し、共有し、それを認め合うという取り組みをしなければなりません。こうした「感情面への働きかけ」が、職員にとっては非常に大切です。各階の師長が音頭を取り、「トロの会」を立ち上げてください。(不平不満を吐露する会)
第2の課題に対しては、ベテランの介護職員が、経験の浅い職員に、現場で的確で標準的な介護ができるための教育を行う体制が求められます。これを総師長、施設長、師長会議に委ねます。
「感情労働」を視野に置き、互いに監視するのではなく、同じ人間的「感情」を有する職員同士が助け合う組織を築いていきましょう。
平成28年3月24日