名誉院長の麻生だより
看看臘月尽(みよみよ ろうげつ つく)
「臘月」とは12月のことである。「よくよく見てみなさい。もう12月も終わってしまいますよ。月日の流れの早いことをよく理解しておきなさい」という禅の言葉である。
「臘月」は12月を示すと同時に私たちの人生も暗示している。「12月」があっという間に終わるのと同じく、人生もあっという間に終わってしまいますよ。ぼんやりとして生きるのではなく、命の尽きる時をしっかり見つめておきなさい」と諭しているのである。
どんな風に生きても一生は一生である。目標を達成するために一生懸命に努力しても、のんべんだらりと過ごしても、時間は万人平等に同じ速さで流れていく。
人生の終わりに後悔しないためには、やり残しを作ってはならない。やるべきことを決して後回しにしないことが肝要である。「明日やれば」「また今度」と言っているうちは、いつまでも実行できないのである。慌ただしい年の瀬、この言葉を思い出してほしい。「人生の臘月」について考えることは、怠けがちな自分を戒める良い機会になる。
子どもの頃は今までの人生の数倍も生きられると思い、人生は長いと感じていた。歳をとった今、これまで生きてきた人生の数分の一しか生きられないと思うと、残された時間が非常に短いと感じるようになったのは私だけではなかろう。
ローマ帝国の学者カトーは八十歳を過ぎてからギリシャ語を習い始めた。「その歳になって、なぜそんなむずかしいことを勉強し始めたのか」と問われたカトーは「これからの人生で、今が一番若いからだ」と答えたという。
私たちは人生の「臘月」に思いを馳せるとともに「自分の人生においては、今が一番若い」ことを自覚しようではないか。10年後の自分が「あと10歳若ければ」と嘆くとすれば、その10歳若返った自分が今ここにいるのである。「今を生きる」とは坂村真民先生が好んで書かれていた禅の言葉である。
平成27年12月24日