名誉院長の麻生だより
昨年、済美高校野球部の2年生6人が1年生19人に対していじめを行い、それが体質的な問題であるとして、対外試合禁止1年間という厳しい処分を受けた。上甲監督が亡くなられた1週間後の処分であり、野球部員は失意のどん底に追いやられた。
高校野球において、強豪校、伝統校と呼ばれているところほど、先輩後輩の上下関係が強い。野球の試合は、勝つことに喜びがあり、勝利するためには、チーム全体の統率力が求められるからである。
上甲監督は「目標と目的を取り違えてはならない。甲子園は目標であり、目的は野球を通じた人間教育にある」と言っていた。
甲子園は絶望的になったが、済美高校野球部員にとっては、良い人間教育の場となった。これも男の修行であった。
礼儀、挨拶、返事、道具を大切にすること、整理、整頓などは先輩が後輩にしつけなければならない。社会に出て、一番大切なことを学ぶ良い機会であるが、ここに「後輩は無条件に先輩を尊敬しろ。先輩の言うことは絶対である」という風潮がまん延することになる。
上甲監督は「長幼の序」という言葉をよく使っていた。「長幼の序」を辞書で引くと「年長者と年少者の間にある一定の秩序」とある。これを、野球部員は誤解していた。決して「後輩が先輩を敬い、先輩の言うことを絶対的なものとする」ということではない。
「長幼の序」とは、先輩に対する戒めの言葉である。「先輩は後輩を労れ。慈しめ。さらに先輩たるもの、後輩の見本となるように、挨拶、礼儀を大切にし、野球の練習に真摯に打ち込み、道具を大切に扱い、授業も真剣に受けるなど自己研鑽に励め」というのが、上甲監督の真意である。
この10か月、野球部員はよく反省し、よく練習し、ボランティア活動にも励んだ。愛媛県高野連の方々はたびたび視察に来てくれたという。済美高校の校長先生らとともに、大阪の高野連を訪れ、謹慎処分の早期解除を陳情してくれた。私たちは謹慎期間の短縮の知らせを県大会の抽選が行われる前日まで待っていたが、かなわなかった。
本日3年生最後の引退試合が坊ちゃん球場で行われる。無念のうちに高校生活を終える生徒の、これからの人生のために精一杯のエールをおくってやりたい。
平成27年6月24日