名誉院長の麻生だより
先日の昼礼においてBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)認知症の行動・心理症状についてお話ししました。以前は周辺症状と呼ばれていたものです。
BPSDとは、徘徊、妄想、幻覚、叫声(きょうせい)、異食、介護への抵抗、暴力行為、不潔行為など、いわゆる問題行動のことです。
なぜ「周辺症状」ではなく、BPSDと呼ばれるようになったのでしょうか。それには3つの理由があります。
1.認知症、特にピック病においてはBPSDが中心の症状であって、決して周辺にある症状ではない。
2.BPSDの発症には心理的、身体的、社会的要因が関与している。理由があって発症するのだから周辺症状ではない。
3.BPSDに対して介護の負担が大きい。だから周辺にある症状ではない。
(第31回愛媛認知症研究会 特別講演『BPSDの診かたと治療戦略』熊本大学 池田学教授 2014年12月5日より)
BPSDをいかにコントロールするかということが、認知症の患者さんや家族にとって非常に重要なことになります。
BPSDは認知障害から直接発生してくるのではありません。その人の個性、人生の歴史、健康状態、心理状態、人間関係、家庭環境、介護の環境などのフィルターを通して発現してくるのです。従って、BPSDの発症の理由は個人、個人によって全く違います。100人徘徊の人がいれば、100通りの理由があるのです。
先日亡くなられた方には、赤ちゃんが来ているという幻覚症状がありました。弟さんに話を聞くと、長男を小さい頃に亡くされたとのこと。その悲しかった出来事が幻覚となって現れたと理解できます。このことを知っていれば、私たちは、もっともっとその人の心に寄り添った対応ができたはずだと思いました。
BPSDの治療の中心は、患者さんのそばにいつも居て、患者さんのこれまでたどってきた歴史、行動様式、性格、身体的訴求、家庭環境などを熟知している看護師さんとヘルパーさんです。
認知症の患者さんとの人間的関わり合いを大切にして、その人の心に寄り添っていただきたい。薬物療法は最後の最後で結構です。
平成27年5月24日