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医療法人 誠志会 砥部病院

砥部病院
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名誉院長の麻生だより

2015/02/03

 今日はクリスマスイブ。みなさんにお話のプレゼントをします。

    「大きな木」 シェル・シルヴァスタイン作
 あるところに、一本の木がありました。その木は一人の少年のことが大好きでした。少年は毎日その木の下にやってきました。木登りだってしました。枝にぶらさがって遊びました。そしてリンゴを食べました。くたびれると木陰で少年は眠りました。少年はその木が大好きでした。木は幸せでした。
 少年はだんだん大きくなっていきます。木がひとりぼっちになることが多くなります。ある日、少年が木の下にやってきました。「遊びなさい」と言う木に対して、「もう木登りをして遊ぶ年じゃないよ」と少年は言いました。「僕にお金をちょうだい」「ごめんなさい、お金はないの」と木は言いました。「私のリンゴを持っていきなさい。そのお金で幸せにおなりなさい」言われた通り少年は、あるだけのリンゴを取り、それを運んでいきました。木は幸せになりました。
 そのあと長い間少年は姿を見せません。木は悲しくなりました。そんなある日、少年がまた木の下にやってきました。木は喜びに体を震わせました。「おいで坊や。私にお登りなさい。遊びなさい」と言う木に対し「僕は忙しくて、木登りなんてしていられないよ。僕には暖かく暮せる家がいるんだ」と少年は言いました。「私の枝を切って、それで家を作ればいいわ。そうして幸せにおなりなさい」少年は言われた通り木の枝を切り、それを運んで行って家を作りました。木は幸せでした。
 少年がまた戻ってきた時、木は心から幸せでした。「いらっしゃい、坊や」と木はささやきかけました。「楽しく遊びましょう」「僕は遊ぶには年をとりすぎているし、心が悲しすぎる」と少年は言いました。「僕は舟が欲しい。ここじゃないずっと遠くに僕を運んでくれる舟が。僕に舟をおくれよ」「私の幹を切って舟を作りなさい」と木は言いました。「それに乗って遠くに行って幸せにおなりなさい」言われたように少年は幹を切り倒しました。それで舟をつくり、遠くに旅立ちました。
 随分長い時間が流れ、少年はまた、戻ってきました。「ごめんなさい、坊や」と木は言いました。「私にはもう何も無いの。あなたにあげられるものが」「リンゴはもうひとつも無いし」「僕の歯は弱くて、リンゴなんて食べられないさ」と少年は言いました。「枝だってもう無いし」と木は言いました。「ぶらさがって遊ぶことも」「枝にぶらさがって遊ぶには僕は年をとりすぎている」と少年は言いました。「もう私に登ることも」「木登りをするような元気は、もう僕にはないよ」と少年は言いました。「かわいそうに」と言って木はため息をつきました。「あなたに何かをあげられるといいのだけど・・・でも私には何も残っていない。今の私はただの古い切り株。悪いんだけど・・・」「僕は特に何も必要としない」と少年は言いました。「腰をおろして休める静かな場所があれば、それでいいんだ。ずいぶん疲れてしまった」「それなら」と木は言いました。そしてできるだけしゃんと、まっすぐ体を伸ばしました。「古い切り株なら腰をおろして休むにはぴったりよ。いらっしゃい坊や、私にお坐りなさい。座って、ゆっくりお休みなさい」少年はそこに腰をおろしました。それで木は幸せでした。

 いかがでしたか。愛には三つの次元があります。アガペーは惜しみなく与える神の愛。フィリアは与えたり、求めたりの友愛。エロースは求めることだけをする利己的な愛です。
 この、大きな木の愛は、まちがいなくアガペーです。少年に惜しみなく、すべてを少年に与えました。結果、自分は古い切り株を残すだけになってしまったのです。それでも木は幸せだったのです。
 一方、少年は求めるだけの愛しか持っていませんでした。「大きな木」から奪えるだけ奪っていったのです。リンゴを売ったお金で少年は何を買ったのでしょう。ろくな使い方はしていないはずです。
 木にもらった枝で、家を建てても、結婚しても、求めることしかしなければ、妻を幸せにすることなんかできません。きっと町に住む人からも嫌がられ、町を出ていくしか無かったのだと思います。
 舟で町を出て、環境を変えても、自分の心が変わらなければ、幸せにはなりません。木の所に帰って来た時、少年は疲れ果ててしまっていたのです。かわいそうに。しかし、自業自得だったのです。
 私の愛はアガペー。SMAPを追いかけようが、友人とお座敷列車に乗ろうが、孤独に耐え、妻を見守るしかありません。私が、古木の根をこよなく愛し、磨いている理由がここにあります。
 みなさん、良いお年をお迎えください。
平成26年12月24日

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