名誉院長の麻生だより
NHKの実態取材では、認知症やその疑いがあり、徘徊などで行方不明になったとして、一昨年警察に届けられた数は9607人、そのうち550人超が死亡したり、行方不明のままだったりすることが分かり、皆さんが考えている以上に深刻な実態が明らかになっています。都道府県別で死亡者が一番多かったのは大阪で26人、愛知が19人、鹿児島が16人。行方不明のままの人の数は愛媛が最も多く19人、愛知が17人、兵庫が16人でした。
昨年は砥部町でも旧広田村で真冬に一人のご老人が徘徊のため行方不明となり、未だに発見されていません。このような社会情勢下、大変参考になるのが大牟田市の取り組みです。「認知症になっても安心して暮らせる地域作り」を目的として、徘徊を否定するのではなく、「安心して徘徊できる町作り」を目指しています。
特筆すべきは10年前から行われている「徘徊模擬訓練」で、訓練に先立って、校区ごとに、声かけ訓練、情報伝達網の再整備、認知症サポーター養成講座などの取り組みを行っています。
この「徘徊模擬訓練」に参加した中学生が、炎天下で道に迷っていた認知症の女性(76)に「大丈夫ですか」と声をかけ、自動販売機でお茶を買い、女性に飲んでもらって熱中症対策をして、「警察に行く」と言うと警戒されるから、「警察に道を尋ねに行きましょう」と訓練の成果を生かして、大牟田警察署に一緒に行き、署員がその方を無事に自宅に送り届けています。
大牟田市の認知症に対する取り組みのすばらしいところは、「認知症はあくまできっかけ」であり、「認知症の方を受け入れるということは、人間そのものを深く理解すること」であるとし、子供たちに「高齢者を敬う気持ち、共に助け合う地域社会の大切さ」を伝え、「多業種が共に働き、世代間の交流を密にして、地域コミュニティーを再構築する」という崇高な目的にあります。
認知症の方を中心に社会のあるべき姿を考えると、世の中がすばらしくなり、地域社会を再生できるのなら、これからの砥部病院の役割は益々重要なものになってきます。
平成26年8月24日